CNNがPerplexity AIを著作権侵害で提訴|AI訴訟の争点【2026年5月】
「Perplexityは、自社が搾取するオリジナルコンテンツを生み出す組織から盗みを働いてよい立場にはない」。CNN広報担当は2026年5月28日、この一文で提訴の理由を公式声明にまとめた(CNN Business)。
CNNは同日、AIサーチエンジン「Perplexity AI」をニューヨーク南部地区連邦地方裁判所(S.D.N.Y.)に提訴した。54ページの訴状が主張するのは、Perplexityが1万7,000件を超えるCNNの記事・写真・動画を無断でスクレイピングし、AIサーチの回答生成に使用したという著作権侵害だ。テレビネットワークによるAI著作権訴訟としては史上初となる(Variety, 2026年5月28日)。
- AIサーチエンジン(Perplexity・ChatGPT・Gemini)を日常的に使っているユーザー
- ニュースメディア業界やコンテンツビジネスに関わる担当者
- AI著作権問題の法的な現状を把握したい方
テレビ局初のAI著作権訴訟、2つの柱
訴状は大きく2つの訴因で構成されている。
第1の柱は著作権侵害だ。Perplexityは「PerplexityBot」と呼ばれるクローラーでCNNのサイトを継続的に巡回し、記事・写真・動画を収集してきた。CNNがrobots.txt(クローラーのアクセスを制御するファイル)でアクセスを拒否した後も、Perplexityはサードパーティ経由でコンテンツを取り込み続けたと訴状は主張する。収集したコンテンツはRAG(Retrieval-Augmented Generation:外部文書をリアルタイム検索しAI回答に組み込む技術)によってLLM(大規模言語モデル)に送り込まれ、ユーザーの質問への回答として「逐語的または準逐語的な再現」が行われているという(Fast Company, 2026年5月28日)。
第2の柱は商標侵害だ。Perplexityは月額5ドルの「Comet Plus」プランの説明でCNNのプレミアムコンテンツへのアクセスを謳い、まるでCNNとの提携が存在するかのように宣伝していた。しかし実際にはライセンス契約は成立していない。CNNは商標の無断使用と虚偽広告にあたると主張し、この点も訴因に含めた(Variety)。
両社は2025年10〜11月に提携交渉を行ったが、条件が折り合わず決裂。CNNは2025年12月に停止要求書を送付したが、Perplexityからの返答はなかったという(The Statesman)。
「事実に著作権はない」: 反論の穴
Perplexityの最高コミュニケーション責任者(CCO)、ジェシー・ドワイヤーは提訴への反応を一言で返した。「You can’t copyright facts(事実に著作権はない)」。この一文はPerplexityがNYT・シカゴ・トリビューン訴訟でも繰り返している法的立場と一貫している。「事実を独占することで新技術を止めようとする試みは、知的財産法の根本原則に阻まれる」と法廷書面でも主張してきた(Seeking Alpha, 2026年5月28日)。
確かに、事実そのものに著作権がないというのは1991年のFeist Publications v. Rural Telephone判例以来の原則だ。しかしCNNの訴状は「事実」ではなく「創造的表現」の侵害を主張している。記者の取材・編集者の選択・映像の構成・写真のアングルは、いずれも著作権法上の保護対象だ。さらに商標侵害の訴えはフェアユース(著作権法上の例外的使用許容法理)論の射程外にある。つまり「事実はコピーできる」という反論だけでは、訴訟の全戦線を防ぎ切れない構造になっている(Al Jazeera, 2026年5月28日)。
メディア業界の分断:訴訟派 vs ライセンス派
Perplexityをめぐって、メディア業界は二つに割れている。
訴訟に踏み切った陣営は多い。ダウ・ジョーンズ(WSJ・NYポスト)が2024年10月、百科事典ブリタニカが2025年9月、シカゴ・トリビューンとNYTが2025年12月、そしてCNNが2026年5月と、S.D.N.Y.には次々と訴状が積み上がっている。日本では読売・朝日・日経の3社が東京地裁に合計約66億円規模の訴訟を起こした。
一方で、ライセンスの道を選んだ出版社も多い。ガネット(USA TODAY)、タイム、フォーチュン、ル・モンド、デア・シュピーゲルなど100社超がPerplexityのパブリッシャープログラムに参加している。このプログラムはサブスクリプション収益の80%をパブリッシャーに還元する仕組みで、配分プール総額は4,250万ドルとされている(Digiday)。
CEOのアラビンド・スリニバスは「パブリッシャーからの訴訟に大変驚いている。ぜひ商業契約を結びたい」と述べ、SpotifyのようなモデルをAI検索に適用したいという立場を繰り返し示してきた(Inc./Reuters)。ただし訴状によれば、交渉が決裂したCNNのコンテンツについてもPerplexityは取得を続けたとされる。これがCNNの提訴につながった。
日本の新聞3社も提訴: 著作権法30条の4が争点
日本でも同様の構図が進行している。2025年8月、読売新聞が約21.7億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。同時期に朝日新聞と日本経済新聞が共同で約44億円を請求する訴訟を起こした。合計約66億円規模となる(Impress Watch、Yahoo!ニュース)。
日本の法的な争点は著作権法第30条の4だ。同条は「著作物に表現された思想や感情の享受を目的としない利用(情報解析やAI学習がその典型例)については、著作権者の利益を不当に害しない限り許される」という趣旨の規定で、海外と比べてAI学習に寛容とされてきた。しかしPerplexityのRAGはユーザーの質問に応じてリアルタイムで記事を取得・再現する。これが「著作物の享受を目的としない」という条件を満たすかどうかが3社の訴訟の核心だ。
文化庁は2025年9月の作業部会資料でこの問題を「未解決の論点」として明記しており、立法的な対応が近い将来に行われる可能性もある(Uravation, 2026年)。
RAGが問われる時代: AI検索の転換点
今回の訴訟の行方を大きく左右するのが、2025年11月のCohere判決だ。ニューヨーク南部地区連邦地裁のコリーン・マクマホン判事は、「逐語的コピーがなくても、オリジナルの記事の表現構造や叙述を模倣したAI生成サマリーは著作権を侵害しうる」と判断してCohereの棄却申請を退けた(Copyright Lately)。
この論理はPerplexity、Google AIオーバービュー、Bing Copilotなど、RAGを使うAI検索サービス全体に直接刺さる。コンテンツ流通計測企業TollBitの調査によれば、AI検索エンジンが報道サイトに送るリファラルトラフィックは従来の検索エンジンと比べ96%少ない。Googleのリファラル激減に苦しむ出版社が複数のAI検索サービスを相次いで訴える流れは、Cohere判決以降さらに加速しそうだ。
2026年6月11日には、AI学習とフェアユースを巡る「Thomson Reuters v. ROSS Intelligence」の米第3巡回区控訴裁判所での口頭弁論が予定されている。これはAI著作権における初の連邦控訴審判断になる可能性があり、その結論次第では全米の下級審判決が一変しうる(LawNext, 2026年5月)。
CNN対Perplexity訴訟は単なる一媒体と一企業の争いではない。「AIが情報を集め、回答を生成し、ユーザーを囲い込む」というモデルが、その情報を生み出した人々に何をもたらすかを問い直す試みだ。訴訟か収益分配か。AI検索と報道の関係をどう設計し直すかの答えは、まだ誰も出せていない。
- 案件: Cable News Network Inc v. Perplexity AI, Inc.(No. 1:26-cv-04427、S.D.N.Y.)
- 主な訴因: ①著作権侵害(1万7,000件超のCNNコンテンツの無断スクレイピング)、②商標侵害(Comet Plusでの虚偽のCNN提携表示)
- Perplexityの反論: 「You can’t copyright facts(事実に著作権はない)」(CCO ジェシー・ドワイヤー)
- 前例: NYT・シカゴ・トリビューン・ダウ・ジョーンズ・読売・朝日・日経など多数が同様に提訴中
- 注目: テレビネットワーク史上初のAI著作権訴訟
PerplexityのAIエージェント機能を実際に試したい方へ
訴訟の背景にあるPerplexityの製品力も把握しておこう。Personal Computerを全Macユーザーに開放したPerplexityの実力と死角を解説した記事で確認できる。
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本記事は2026年5月31日時点の公開情報をもとに執筆しています。訴訟の進行状況は今後変わる可能性があります。投資判断・法的判断・ビジネス判断の根拠としないでください。