ソニーがUdioを著作権侵害で提訴|YouTubeから3万曲を抽出したAI音楽学習の実態
「これはもはや”サンプリング”の問題じゃない。ビヨンセやマイケル・ジャクソンの楽曲3万曲をYouTubeからごっそり抜き取ったという話だ」。Variety誌のコメント欄には2026年7月22日、こうした声が相次いで届いた(Variety, 2026年7月22日)。
2026年7月20日、ソニーミュージックエンタテインメント(SME)はニューヨーク南部地区連邦地裁に新たな訴状を提出した。AI音楽生成スタートアップUdioが、SMEが権利を持つ30,117曲を無断で学習データに使ったと主張する内容だ。元の訴訟(2024年)で問われたのは333曲・最大5,000万ドルの損害。今回は一気に30,000曲超・最大45億ドルへと規模が拡大した(The Next Web, 2026年7月22日)。
- SunoやUdioなどAI音楽生成ツールを利用している音楽クリエイター・DTMユーザー
- 生成AIの著作権問題に関心があるエンジニア・法務担当者
- AI学習データと著作権の動向を追うビジネスパーソン・研究者
なぜ今、新たな訴状なのか
時系列を整理すると、今回の訴訟がいかに異例かわかる。
2024年6月、音楽大手3社(UMG・WMG・SME)はUdioとそのライバルのSunoを一斉提訴した。しかしその後、UMGとWMGは2025年後半にUdioと和解。条件は2つだ。①今後の学習データは事前にクリアランスされた素材のみ使用する、②AI生成楽曲はプラットフォーム外に流出させない「ウォールドガーデン」方式に移行する、というものだった(Billboard, 2026年7月)。
SMEのみが戦い続けた。2024年の元訴訟の審理が進む中で、発見手続き(discovery)においてSMEはUdioの学習データセットにアクセスできた。そこで見えたのが「333曲どころではない」実態だった。独自の法科学的調査(forensic review)により、SMEの権利を持つ「数十万件」の録音がUdioの学習データに含まれると判断した(Music Business Worldwide, 2026年7月)。
SMEはこれを元の訴訟に追加しようとした。しかしAlvin K. Hellerstein判事は「証拠開示(discovery)のこの段階で3万曲を追加すれば、Udioに不当な不利益が生じ、裁判が遅延する」として申請を棄却。そのため、SMEは新たな訴状として別件提訴するしか道がなかった。
YouTubeから楽曲を「抜き取った」手口
最大の焦点は、Udioがどうやって学習データを調達したかだ。
SMEの訴状によれば、Udioは「YT-DLP」と呼ばれるツールを使い、YouTubeから音声データをstream ripping(著作権保護をバイパスした音声抽出)で取得した。YT-DLPはオープンソースのコマンドラインツールで、YouTubeの利用規約ではコンテンツのダウンロードを原則禁じているが、技術的な制限を回避する手段として広く使われている(Engadget, 2026年7月)。
Udio自身も「YouTubeをデータソースとして使用した」ことは認めている。ただしその行為はフェアユース(著作権法上の公正利用)に当たると主張する。フェアユース判断には「目的・性質」「著作物の性質」「使用量」「市場への影響」の4要素があり、Udioは「AIモデル学習は変容的利用であり保護される」という立場だ。
しかし今回の焦点はフェアユース以前の問題でもある。YouTubeの利用規約に違反したstream rippingは、フェアユース成立の前提となる「合法的な入手手段」を欠く可能性がある。2025年の著作権侵害訴訟においてJon Alsup判事は「合法的に入手した書籍を使ったAI学習はフェアユース」と判示したが、この判決の射程はstream rippingには及ばないとする見方が有力だ(Unite AI, 2026年7月)。
45億ドルとはどういう計算か
米国著作権法では、登録済み著作物の侵害に対して1件あたり最大15万ドルの法定損害賠償を認める。今回名指しされた30,117件すべてに最大額が適用されれば、30,117 × 150,000 = 約45億ドルという計算になる。これは理論上の最大値であり、実際の判決額はこれをはるかに下回ることがほとんどだ(Unite AI, 2026年7月)。
それでも数字のインパクトは大きい。元の2024年訴訟(最大5,000万ドル)との合算で、Udioが背負うリスクは約46億ドルに達する。Udioはスタートアップとしての規模を考えれば、法定損害賠償をそのまま受け入れれば会社が存続できなくなる水準だ。
UMGとWMGが「ウォールドガーデン」への移行を条件に和解した背景には、長期化するリスクより実利を取る判断があった。SMEが戦い続けるのは、より強い先例(precedent)を確立し、AI音楽業界全体の学習データ調達に歯止めをかける戦略があるとされる(Music Business Worldwide, 2026年7月)。
音楽業界とAIの攻防、現在地
AI音楽訴訟は2024年以降、世界的に積み上がっている。
SMEとSunoの訴訟は2026年7月時点で審理が継続中。Sunoの発見手続きでは「数百万件」の音源が学習データに含まれていたことが明らかになっており、Sunoの潜在的リスクは桁違いに大きい可能性がある(TechTimes, 2026年6月)。
Dexertoが報じたように、今回の訴訟でリストアップされた楽曲にはビヨンセ、マイケル・ジャクソン、ハリー・スタイルズ、マライア・キャリー、エルビス・プレスリーらの楽曲が含まれる。名前の知れた楽曲が並ぶほど陪審員への印象が高まる。SMEが法廷に持ち込む証拠として、これ以上ない素材だ(Dexerto, 2026年7月)。
AI音楽業界の課題は、学習データの合法的な調達だ。SunoはSMEとの訴訟継続中、Udioは新たな訴状を抱えながら「事前クリアランス済みデータで新モデルを構築する」とは約束していない。UMG・WMGとの和解はその義務を課したが、SMEとの間では未解決のままだ。
Hacker Newsでは「Udioがフェアユースで勝てるかどうかは、stream rippingがあったかどうかに左右される。裁判官がこれを違法手段と判断すれば、フェアユース議論は吹き飛ぶ」という意見が多くの賛同を集めた。一方で「AI音楽生成が合法なら既存の楽曲も学習データに使えるべきだ、ライセンス料を支払うべきはAI企業ではなく利用者だ」という対立軸も鮮明だ(Engadget, 2026年7月)。
日本の音楽クリエイターが知るべきこと
ソニーは日本法人ではなくソニーミュージックエンタテインメント(米国子会社)として提訴しているが、日本の音楽著作権にも影響を与えうる。
日本では著作権法第30条の4が機械学習目的でのデータ利用を広く許容する。情報解析を目的とした著作物の利用は「著作権者の利益を不当に害する場合」を除き認められる。ただし、日本法のこの条文もstream rippingのような「コピープロテクションの破壊」には別の条項(第113条の6、第120条の2)が適用される可能性がある。
今回の裁判の判決が出れば、米国法の観点で「stream ripping + AI学習 = 著作権侵害」という先例が確立する。日本企業がグローバルにAI音楽ビジネスを展開する際には、米国法準拠の学習データ調達が不可欠となる。日本国内専用サービスでも、海外楽曲を学習に使えば米国で訴えられるリスクがある点は見落とせない。
- stream rippingとフェアユース: YouTubeからのstream rippingは「合法な入手手段」ではない可能性があり、フェアユースが成立しないリスクがある。使用を検討する開発者は法的確認が必須
- 発見手続きで露見する実態: Udio訴訟のように、裁判の証拠開示で学習データの全容が明らかになる。「どんなデータを使ったか」は後に証拠として精査される
- 和解 vs 先例: UMG・WMGは和解で実利を取り、SMEは先例確立を選んだ。AIと音楽著作権の「ルール」がこの訴訟で形成される可能性がある
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Anthropicの15億ドル著作権和解から今回のSony vs Udioまで、AIの学習データと著作権の攻防は続く。関連記事で判例の流れを確認しよう。
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本記事に記載された訴訟の内容・損害賠償額は2026年7月22日時点での訴状および報道に基づく。裁判の最終判決はこれと異なる場合がある。法的アドバイスを必要とする方は専門家に相談されたい。