「Crazy Taxi: World Tour」がAI騒動に揺れた理由|SEGAのGenAI開示に賛否
「Know what… think I’ll just walk home.(わかった、歩いて帰る)」。Redditユーザー RORSCHACH_INC_ がCrazy Taxi: World TourのAI騒動に寄せたコメントだ(r/gaming, 2026年6月)。クレイジータクシーのあの台詞「CRAZY TAXI!」と重ねた皮肉で、スレッドは数千のアップボートを集めた。
2026年6月のXbox Games Showcase。25年以上の沈黙を破って発表されたCrazy Taxi: World Tourは、最初の数時間だけ祝福に包まれた。ところが、Steamのゲームページが公開された直後に事態は変わる。「ジェネレーティブAI」の開示文が掲載されているのをファンが発見し、歓迎の声はあっという間に批判に変わった。
- クレイジータクシーシリーズのファンで、新作の動向が気になっている方
- ゲームへのAI使用に賛否どちらかの意見を持っているゲーマー
- ゲーム業界のAI活用と消費者反応の動向を把握したいデベロッパー・クリエイター
25年ぶりの復活が歓喜から批判に変わるまで
オリジナル版Crazy Taxiがドリームキャストで登場したのは1999年。乗客を目的地まで時間内に届けながら稼ぎを競う爽快なアーケードゲームで、続編が2、3と続いた後、メインシリーズはおよそ四半世紀にわたって沈黙していた。
2026年6月のXbox Games Showcaseで発表されたCrazy Taxi: World Tourは、シリーズ生みの親であるKenji Kannoが指揮を執る正統な新作だ。舞台は5ヶ国5都市に拡大。主人公Axelが奪われた愛車を追いかけるストーリーモードが初登場し、1999年から長年リクエストされ続けてきたオンラインマルチプレイも実装される。対応プラットフォームはPS5、Xbox Series X/S、Nintendo Switch 2、PCで発売は2027年を予定している(SEGA公式)。
プレビュー動画は数百万回再生を記録し、Xのトレンドに「CrazyTaxi」が登場した。ファンの反応は概ね好意的だった。少なくとも、SteamのゲームページにGenAIの開示文が掲載されていることが発見されるまでは。
SteamのAI開示文が引き金を引いた
Steamページに掲載されたSEGAの開示文はこうだ。「SEGAでは、開発者がよりクリエイティブな業務に集中できるよう、ジェネレーティブAIを開発者向けのサポートツールとして活用しています。Crazy Taxi: World Tourの開発においても、背景アセットの制作をサポートするためにジェネレーティブAIを使用しました。生成されたアセットは引き続き開発チームによるレビューを経ています。ゲーム内パフォーマーへの参照にはAIは使用していません」(Shacknews, 2026年6月)。
Redditのr/CrazyTaxiには「Gen AI使ってるのか。Thanks for nothing SEGA(何が感謝だ)」という声が相次いだ。PC Gamerは「I don’t think this really improves the situation(状況が改善されたとは思えない)」と批判的に評した(PC Gamer, 2026年6月)。Kotakuは「I…what do you need generative AI for, man? It’s Crazy Taxi!(なんでCrazy TaxiにAIがいるんだ)」と書き、「あんなゲームは人間だけで十分作れる」と続けた(Kotaku, 2026年6月)。
「参考資料として使っただけ」――Kenji Kannoの釈明
批判を受けてSEGAはGame Informerの取材に応じ、Kannoが直接説明した。「AIはあくまで参考資料として使った。アーティストがアイデアを生成して、その画像を見て、実際に自分たちで描く。プログラミングからアセットまで、すべては人間の手によって作られている。ゲームに入るものはすべてオリジナルだ」(Game Informer, 2026年6月)。
SEGAも追加声明を出した。「最終製品はすべてオリジナルであると保証する。私たちは自分たちで物を作ってお客様に届けたい」(Time Extension, 2026年6月)。
要するにSEGAの主張は「アイデア出しのスケッチにAIを使った。最終出力は人間が作った」というものだ。画家が参考画像を集めてから本番に臨むのと同じだという論理で、理屈としては理解できる。ただ、それがゲーマーの感情的な反発を抑えるかどうかは別の話だ。
ゲーマーの85%がAIに反発する現実
Quantic Foundryが2025年12月に公表した調査では、ゲーマーの85%がゲームへのジェネレーティブAI使用に否定的な見解を持ち、そのうち62%は「非常に否定的」だと回答した。肯定的は7.6%にとどまる。Steamの調査では、AI使用を開示したゲームは開示しないゲームと比べてレビュー件数が平均53%減少し、評価も低くなる傾向が確認されている(PC Gamer, 2026年)。
一方、GDCの2026年レポートによれば、ゲーム業界従事者の36%がすでにジェネレーティブAIツールを使用しており、52%が「AIは業界に悪影響を与えている」と考えている(Game Developer, 2026年)。使う側でさえ半数以上が問題視しているという矛盾した状況だ。日本でもTGS主催者の2025年調査によれば、54社中51%がジェネレーティブAIを開発に使用していると回答している。
前例で見るAI騒動の構造――Crimson Desertの教訓
比較として有益なのがCrimson Desertのケースだ。Pearl Abyssは2026年3月にCrimson Desertをリリースしたが、ほどなくしてプレイヤーが「明らかにAI生成と分かる絵画がゲーム内に存在する」と指摘した。問題の画像には人間の手が馬に溶け込んでいたり、剣が不自然な角度で交差していたりと、AI生成の典型的な破綻が見られた。
Pearl AbyssはSteamの開示も行っておらず、数十時間は沈黙を保った。その後「開発初期段階の仮置きアセットが製品に混入した」と説明し、差し替えを約束。一時Mixed(混合)に落ちた評価は、その後Very Positiveまで回復した(Engadget, 2026年)。
SEGAのケースとCrimson Desertの違いは明確だ。SEGAは開示した。Crazy Taxiの場合、問題のAIアセットは最終製品に含まれないとSEGAは主張しており、Kannoの説明が事実であれば、開示の方法としては一つの誠実な対応とも言える。批判の根は「開示した内容」ではなく「開示した事実そのもの」への反応だ。
CapcomはNO、SEGAはYES――日本スタジオの対照的な選択
同じ日本の大手スタジオでもAIへの方針は分かれている。Capcomは「ジェネレーティブAIによるアセットをゲームに実装しない」と明言している。技術VP・井上信一氏は「最高峰のAIでさえ、クリエイターの感性には及ばない」と語っており、AIは開発効率向上のための内部ツールにとどめる方針だ(PC Gamer, 2026年)。
一方のSEGAは活用に踏み切った。Konami、Level-5、Square Enixも何らかの形でAIを活用しているとされる。どちらの判断が正解かは発売後の評価が決める。
重要なのは、SEGAが取った「使用して開示する」という行動それ自体が、現時点ではゲーマーの多数派から罰点を食らうことだ。Steamの開示要件が2026年1月に改訂されて詳細な記述が求められるようになり、「見えない場所で使って黙っている」という選択肢がなくなりつつある。正直に開示することへのペナルティが大きい現状は、ゲーム業界の構造的な問題でもある。
光と影――2027年発売までに何を見るべきか
Crazy Taxi: World Tourの話に戻ると、ゲームの本質的な評価はまだ下せない。発売は2027年。ゲームプレイ映像を見る限り、オープンワールド化と5都市への拡張は大きな賭けで、原作のアーケード的爽快感をどう維持するかが焦点だ。
懸念点があるとすれば、Kannoが「AIを参考資料に使った」と明言したことで、背景アセットのクオリティへの疑念が残ることだ。最終的な出来栄えを左右するのはあくまでアーティストの腕であり、判断は2027年の発売時に実際のアセットを見てからだ。
一方で見逃せない事実もある。SEGAは開示した。Crimson Desertのように後で発覚して謝罪するよりも、最初から表明したことはむしろ評価できる。ゲーマーの反発は短期的な感情だが、透明性への信頼は長期的な資産だ。
- タイトル: Crazy Taxi: World Tour
- 発売予定: 2027年
- プラットフォーム: PS5 / Xbox Series X/S / Nintendo Switch 2 / PC
- 開発: SEGA(ディレクター: Kenji Kanno)
- 主な新要素: ストーリーモード、オンラインマルチプレイ、5都市オープンワールド
- AI使用: 背景アセット制作の参考資料として使用。最終アセットは人間が制作と説明
ゲーム業界のAI活用についてさらに詳しく知りたい場合は、バイブコーディング入門でAI支援開発の光と影を確認できる。ゲームへの評価騒動が気になる方はSlay the Spire 2レビューボム全顛末も合わせて読んでほしい。
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