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The Making of Claude Code解説|Claude Code誕生秘話をPMが読む

手で書き上げたプルリクエスト(コードの変更提案)が、レビューで却下された。理由はコードの質ではない。「これはclideにやらせるべきだった」。clideとは、当時Anthropic社内で使われていたAIコーディングツールの呼び名だ。つまり、人間が自分の手で書いたこと自体が却下の理由になった。製品化前のあの会社の内側は、すでにそういう文化だった。

このエピソードが載っているのが、Anthropicが2026年7月6日(米国時間)に公開した「The Making of Claude Code」だ。Claude Codeが社内の実験ツールから公式プロダクトになるまでを、関係者19人の証言で綴ったオーラルヒストリーである。読み物として面白い。ただしHacker Newsでは「自己神話化が過ぎる」と辛辣な声も飛んでいる。両方を紹介したうえで、PMとしてこの文書から何を持ち帰るべきかを書く。

この記事はこんな人におすすめ
  • Claude Codeを日常的に使っていて、その成り立ちを知りたいエンジニア
  • 社内ツールの製品化やドッグフーディング(自社製品を社員自身が日常業務で使い倒すこと)の実例を探しているPM・プロダクト担当者
  • AIコーディングツールの競争の背景を押さえておきたい方
結論(忙しい人向け)

「The Making of Claude Code」は、2021年のコーディングモデル研究から、社内ツール「clide」、2025年2月の不評だった公開、Claude 4以降の急速な普及までを19人の証言でまとめた公式ドキュメントだ。PM視点での読みどころは3つ。

  1. 全社ドッグフーディングが製品判断を代替した構造
  2. 「今は成功率2〜3割でも、次のモデルで8割になる」という将来のモデルに賭ける製品哲学
  3. 複雑な検索基盤よりgrepという引き算の設計

一方でHacker Newsでは自画自賛への冷ややかな反応も多く、CursorやAiderなど先行者への言及がない点は割り引いて読むべきだ。

「The Making of Claude Code」で何が公開されたのか

公開されたのは、研究者・エンジニア・デザイナー・初期ユーザー計19人の証言を時系列に編んだ長編ドキュメントだ(出典: Anthropic公式 / Michael Guo氏のX投稿, 2026年7月)。凝っているのは見せ方で、ターミナル風の画面で読む「Read in Terminal」と通常表示の「Read as Article」を選べる。ASCIIアートのタイトルが目に飛び込んでくる演出は、いかにもClaude Codeらしい。

証言から浮かぶタイムラインを整理する。

時期出来事
2021年コーディング特化モデルの研究開始。研究者Dawn Drain氏が「自分と同等にコードを書けるモデル」を目標に据える
2022年VS Code拡張として初期のコーディングアシスタントを試作。外部ユーザー約100人に提供
2022年末〜2023年Bashツール呼び出しとdiff生成を開発。社内CLIツール「clide」が生まれる
2024年1月共同創業者Ben Mann氏がLabsチームを設立
2024年9月Boris Cherny氏が入社。clideを原型にプロトタイプを構築
2024年12月2週間のスプリントで中核機能が完成
2025年2月リサーチプレビューとして公開。初期の反応は「アイデアは良いがバグが多い」
2025年5月〜Claude 4リリースを境に普及が加速

(出典: BigGo Finance, 2026年7月 / AI-360。年表は証言の要約であり、日付の粒度は原文に依る)

意外なのは、2025年2月の公開が成功ではなかったという証言だ。外部の反応は冷ややかで、バグの多さを指摘する声が目立ったという。流れが変わったのはモデル側、つまりClaude 4の登場だった。プロダクトの改善ではなくモデルの進化が普及の引き金になった。この順序は覚えておく価値がある。

前身「clide」と、100体のHaiku

文書の主役級はClaude Codeの前身、社内ツール「clide」だ。証言では「不格好で遅かった」と率直に語られている。それでも当時としては過激な機能があった。一度に読み込める情報量(コンテキストウィンドウ)に収まらない巨大なフォルダを渡すと、軽量モデルのClaude Haikuを100体並列に召喚して手分けして読ませるのだ(出典: BigGo Finance)。サブエージェント機能の原型がこんな時期からあったことになる。

Cherny氏は初めてclideに触れた体験を「未来に足を踏み入れた感覚だった」と振り返る(出典: 同BigGo記事)。冒頭のプルリクエスト却下のエピソードも、この時期の社内文化を物語る。ツールがまだ粗削りでも、まず全員が使う。使うから改善点が出る。この循環が2週間スプリントでの製品化を可能にした。

製品名の由来も明かされている。「clide」のままでは伝わらないと、マーケティング担当のAlex Isken氏が「Claude Code」を提案した。ロゴのASCIIアートはIgor Kofman氏、マスコット的キャラクター「Clawd」はデザイナーのMeghan Choi氏の仕事だ。

Cherny氏自身の変化も具体的な数字で語られる。2025年2月時点でClaude Codeが書くのは自分のコードの1割ほど。5月に4割、2025年末には10割になり、以来手でコードを書いていないという(出典: BigGo Finance。引用は英語・中国語経由の要旨)。Claude Code自体のコードも約9割がClaude Code製とされる。ここまで来ると開発者の役割そのものの変化の話になる。

PMとして持ち帰るべき3つの設計判断

読み物としての面白さとは別に、プロダクトに関わる人間が拾うべき判断がいくつか埋まっている。PMとしての理解では、核心は次の3つだ。

1. 将来のモデルに賭けて作る

Ben Mann氏の証言が象徴的だ。「成功率が2〜3割しかないプロダクトを今作らなければならない。次のモデルが来たとき、その成功率が8割になるように」(出典: BigGo Finance)。普通の製品開発では成功率3割の機能はボツになる。モデルの進化速度を織り込むと逆の判断になる。実際、2025年2月の不評はClaude 4で覆った。

2. 引き算の設計

開発チームはローカルのベクトルデータベースや再帰的なインデックス構築も試したうえで、最終的にglobとgrep(ファイル名や文字列を探す昔ながらの検索コマンド)をモデルに直接使わせる方式を選んだ。シンプルな検索のほうがRAG(外部データを検索して回答に組み込む手法)より成績が良かったからだ(出典: The Pragmatic Engineer)。仕組みの複雑さは賢さの証明にならない。

3. 信頼は段階的に移る

プロダクトリードのCat Wu氏は、公開当初のユーザーが権限確認のダイアログを一つひとつ緊張しながら読んでいたのに、やがて大多数が「すべて自動承認」を選ぶようになったと証言する(出典: 前掲BigGo記事)。ユーザーの信頼は機能ではなく実績の蓄積で動く。権限設計を最初から緩くしていたら、この移行は起きなかっただろう。

正直に言うと、読む前は「どうせ美談集だろう」と斜に構えていた。半分は当たりで、半分は外れた。美談は多い。ただ、2025年2月の公開が不評だったこと、clideが遅くて不格好だったことを隠さず書いている点は、企業の公式ドキュメントとしては珍しい部類だと思う。

Hacker Newsの反応:「自己神話化」批判も

賞賛一色ではない。米国の技術者向け掲示板Hacker Newsのスレッド(2026年7月7日)では、むしろ批判が目立った。

まず筆頭が「自己神話化が過ぎる」という声だ。alpineman氏は一言、「self-mythologisingが強烈だ」と切り捨てた。チーム規模の課題解決を偉業のように語る筆致への苛立ちは複数のコメントに共通する。

歴史の書き方への異議もある。adi_pradhan氏は「Sonnet 3.5とCursorがエージェント型コーディングの市場性を証明したことには、せめて言及があってしかるべきだった」と指摘する。chrisvenum氏はAiderを先行事例として挙げ、Claude Codeが勝った理由を「トークンに飢えた開発者に、潤沢なVC(ベンチャーキャピタル)資金を燃やして定額使い放題を差し出したからだ」と身も蓋もなく分析した。公式の物語では自社の慧眼が強調されるが、外部から見た勝因は価格戦略だという見方だ。この構図はOSS系エージェントとの比較でも書いた通り、いまも競争の焦点であり続けている。

技術面の冷笑もあった。ターミナルの描画のために内製した仕組みを「ゲームエンジン」と呼んだ開発チームのX投稿が蒸し返され、nsingh2氏に「テキストを表示するという難問を解くために、当然ながら小さなゲームエンジンを作った」と皮肉られている。表示モードを選ばせるページ演出も「クリックしたら本文を見せてくれ。賢いつもりだろうが、ただ鬱陶しい」(grim_io氏)と不評だった。

一方で、文書内の証言で最も信頼できるのは誰かという興味深い読み方も出ていた。mccoyb氏は、登場する凄腕エンジニアTristan Hume氏が周囲の熱狂をよそに「まだそこまでの性能ではない」と繰り返し口にしている点を「この記録で一番示唆的な部分」と評した。内部にいた懐疑派の声こそ、この文書の価値かもしれない。

自分ならこう読む

PMとしての判断を書いておく。この文書は「Claude Code礼賛」として読むと得るものが半減する。読むべきは意思決定の記録としてだ。成功率3割で出す判断、grepで済ませる判断、権限確認を最初は厳しくする判断。どれも当時は反対意見があったはずで、その賭けの構造だけは外部の人間にも再利用できる。

逆に、鵜呑みにしないほうがいいのは「必然の成功物語」という枠組みそのものだ。Hacker Newsの指摘通り、CursorやAiderが耕した市場や定額制という価格戦略の追い風について、文書はほとんど語っていない。Cherny氏自身が「まだ1%しか終わっていない」と語っている以上、この物語は完結編ではなく途中経過だ。Claude Codeの直近1年のアップデート利用量が80倍に伸びた事業側の動きと突き合わせながら、続きは自分の目で確かめるのがいい。

読む前の注意点
  • 原文は英語のみ。日本語版は提供されていない
  • オーラルヒストリーは当事者の記憶に基づく証言集であり、日付や数値の一部は裏付けが取れない
  • 競合製品(Cursor、Aider等)の貢献にはほぼ触れられておらず、市場の歴史としては一面的
  • 本記事の引用は筆者による日本語訳(要旨)

英語が苦にならないなら、原文「The Making of Claude Code」を「Read in Terminal」モードで開いてみてほしい。読み終えるまで20〜30分。Claude Codeを毎日使っている人ほど、普段のあの挙動の裏にあった判断が見えて面白いはずだ。読む時間がなければ、この記事のタイムラインと3つの設計判断だけ持ち帰ってもらえれば十分だし、Anthropicという会社の全体像はAnthropic完全ガイドで押さえられる。

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本記事の情報は2026年7月11日時点のものだ。「The Making of Claude Code」の内容に関する記述は、公式ページおよび複数の二次ソースに基づく要約であり、引用は筆者による日本語訳(要旨)。オーラルヒストリー内の数値・日付は当事者の証言に基づくもので、独立した検証が困難なものを含む。最新情報はAnthropic公式を参照してほしい。本記事は特定のAIベンダーとの提携関係に基づくものではなく、独立した編集判断で執筆している。

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